彦坂尚嘉さん個展・ART FAIR TOKYO 19 (2025)
3月7日(金)
天王洲アイルの寺田倉庫2、CONTEMPOART TOKYOの彦坂尚嘉さんの個展へ。
天王洲という湾岸の場所が海風で寒いだろうと恐れていたのだが、やはり冷たい強風に震える。顔が冷えると敵面に浮腫が酷くなり、眼の奥が痛む。方向がよくわからず迷ってやっとたどり着いた。
エレベーターを待っていたらちょうど彦坂さんと糸崎公朗さんがいらした。
個展タイトルは「3層の美術・・・イベント・絵画の死・生成AIの絵画」。
昨年、永井画廊でされた個展「ゾンビ芸術と美女絵画」について質問してみた。
「ホワイトアート(原始性、狂気)、ピンクアート(イラスト、想像界)、ブラックアート(想像界と象徴界、言語活動)と分類した絵画は3者の比較では読み解くことができるけれど、例えばAI美女絵画1点だけを見て、それがホワイトアートだと判定できるのですか?」
答えは「それは難しいね」ということだった。そして「永井さんはこの分類について理解しているのですか」という質問に対しては「理解していない」と。
「絵画の死」のウッドペインティング連作について、素材は桂の木と表記してあるが杉とのこと。
「この造形なんですけど、下側が丸くて上側が直角に切ってある、このかたちにはどういった意味があるのですか?」と質問すると
「ダダの流れからやったんだよね。よく覚えてないな・・」とのこと。
1971年から72年まで、3回やったという床にラテックスをまくアクションの写真の前で糸崎さんが撮影してくださった。
71年の自宅でやった時のは撮影されただけだけれど、ルナ三画廊でやった時はたくさんの人が見に来て、最後には数人の女性が躍っていたりしたそうだ。
ART FAIR TOKYO 19 (2025)について、搬入の時に見てきたそうだが、「今の現代アートはとにかく酷いね。」と言われていた。
「どういうふうに酷いですか?」
「とにかく知能程度が低いとしかいいようがない。芸術に達していない。やっている人もギャラリーもなにもわかってない人たちがやってるね」
また、ずっと避けられていた村上隆とやっと話せて動画を撮ることができたと言っておられた。
・・
駅へと戻る途中で、ガラス張りの店の中にずら~~と数百色もグラデーションで並んだ岩絵の具の瓶を見て、ついつい中に引き込まれてしまった。
こんなところに「PIGMENT」という店。
右の棚にはフルーツを詰めるような細長い瓶に鮮やかな顔料がずらり。店員さんに質問すると、イタリアのゼッキ社の顔料だと。
「テンペラやフレスコに使うものですか?」と聞くとそうだという。
もう極力、絵の具を買い足すことはせず、死ぬまでに今持っている岩絵の具を使い果たすと決めていたのに。
迷いに迷って、ラピスラズリよりも鮮やかなフタロブルーと、最近できた岩絵の具の煌く雲母系の黒を1両目(15g)ずつ買ってしまった。
たくさんの種類の膠がおいてあり、膠に混ぜて使えるというアルギン酸溶液が売られていたのだが、どうなのだろう?
「アルギン酸でつまり海藻ですよね?これをまぜて膠の柔軟性が高まるのですか?」と質問したが・・・結局買わなかった。
・・
次に有楽町のART FAIR TOKYO 19 (2025)へ。
通常の私なら絶対に来ない(今の現代アートは異常に疲れるので。)イベントだが、5000円もするチケットをいただいたので。
彦坂さんのブースは2階の無料コーナーで最初に見つけた。75年の「絵画の死」がテーマのウッドペイントの作品郡が目立っていた。
隣がボヘミアンズギルドだった。ジョン・ケージのシックな色の線だけの絵がよかった。ひとつひとつの線がおざなりでなく、全部違う音色。若林奮先生の繊細な「百線」もあった。
KTOのブースで、塚原史さんと会った。22年の私の吉祥寺の個展からの再会。20年以上前に早稲田大学で私の講演があってお世話になった、とKTOのオーナー田中さんに言ったら驚いていた。
「彼女はか弱く見えて、ものすごく強い人なんですよ」と、塚原さんが田中さんに私のことを言ってくださった。
南雄介さんにもお会いできた。
KTOスタッフで、詩が好きで、特に西脇順三郎と左川ちかが好きという珍しい人、一詩(かずし)さんに紹介された。一詩さんは私となら詩の話ができると、私と会うのを楽しみにしていたそうだ。
正直、4日の検査結果でサイログロブリンがさらに上がっていたら来なかった。死を目の前に突き付けられた状態で私が耐えられるようなイベントではない。
意外だったのは、超然と我が道を行くギャラリーがけっこうあったことだ。
ローマングラス専門の店、ガレやドームのガラス器専門の店、中国骨董専門の店、素朴な陶の店、漆細工専門の店、熊谷守一ばかりの店、香月泰男ばかりの店、徳岡神泉や小野竹喬の抽象に近い小品を売っている店、戦争画(宮本三郎など)の専門ブースなど、私にはこれらのほうが面白い。
確かに彦坂さんが言ったように、いかにも現代アートといったものたちに関しては10年前、20年前よりレベルが落ちていると感じる。デザイン要素すらもなく幼稚さを売りにしているようなものも多かった。本当によく見る版で押したような類型。日本古美術のパロディなど。
一番惹かれたのは香月泰男の「幼鳥」。中村宏の女学生の顔の絵。
さり気ない古い厚紙に亀裂が入っているような作品郡を見つけて、「あ、この人はセンスいい」と作家名を見たら松澤宥だった。
概念派でオブジェを消そうとした人だが、皮肉にも、コンセプトを読まなくても、眼から入ってくるものにしっかりとなにかがある。まわりに展示されている大方の現代アートの人たちとは知能もセンスもまったく異なる。昔の人の感覚は違う。
なんの予断もなくただ眼をすべらせて行って、「あ、この人はいい!」と、そこだけ異質なものを発見して作家名を見ると、必ず昔の人の作品なのだ。
極力疲労しないように、眼からストレスになる悪いものを入れないようにと気を引き締めて行ったのだが、やはりそうとう疲れた。
最後のほうで東京画廊の山本豊津さんにもご挨拶できた。あいかわらずとても忙しそう。
右の腰に今まで経験したことが無いような痛みが走り、生まれて初めてのぎっくり腰になる危険を感じた。
銀座INZまで歩いて軽食、休憩して帰宅。
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