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2010年3月28日 (日)

浅田真央 「鐘」   身体芸術 アスリート

3月28日

私達は、散漫で雑多な日常に生きている。わかりやすくて安心できるもの、はやりのもの、慣れ合い、軽いおしゃべり。そして、ぎりぎりに追い詰められて決断しなければならいところからは、だいぶ手前で日常をこなしていく。

いつからか「アート イコール マーケティング(経済)」になって久しい。お金になるものが良いもの。なんでもあり。とにかく「なんでもあり」である。そしてお金のあるところに人が群がる。アートの価値付けは、それがビジネスになるなら、後付けでなんとでもなる。

それでも、わたしは、希少な才能、凄みのある美しさ、全身を震撼させてくれるようなもの、唯一無二の存在(と私の身体が感じるもの)を、見たい。

007は、誰でも知ってる。皆が大好き(わかりやすい)。だから、これ(ボンドガール)が最高に一般大衆受けするプログラムなんだ、とオーサーは言った。所詮、一般大衆はその程度のものだ、と。(「キムヨナ成長物語」に至っては、もう、(誰が興味を持つのか)意味不明。)

しかし、タラソワはそれに真っ向から、正攻法で挑んで見せた。出来得るかぎりの最も困難なことをやること、生存の危機に対峙した人間の挑戦の姿、ありきたりの日常からは隔絶した、ぎりぎりの生の実存そのものを演じて見せて、わかる人にはわかる、これこそが、本当の、極限のフィギュアスケートだ、と。

ものすごいものを見ると、人は言語不全に陥る。それを人間的な理屈ですらすらと言える場合は、たぶん言葉のほうが、身体を伴わずにしゃべっているのだと思う。

だから、この書きかたでは、少し書きすぎたのかもしれない。が・・・・

浅田真央の「鐘」へのごく個人的なオマージュ。

私の眼は、私の身体は、何を見たのか?

自分を固く抱きしめて俯く者。それから、全くの孤独と静寂の中で、重たい鉛の空間を両手で掻き上げる者がいる。なんという不穏。なんという孤絶。そして、身も凍る緊張の空気を、つーーーっと切り裂いて滑ったかと思うと、カッと氷を蹴って宙を舞う。ビュッと鎌鼬のような音がして、銀の炎が炸裂する。着地した彼女はにこりともしない。ただ、何か(眼の前のものではない何か)を一心に見つめている。

全ての重みに耐えるように地に伏しながら、高速回転。ひれ伏したまま、腕を背中のほうに掲げて、水から飛び立つ前の鳥が羽ばたくように高速回転。そして何かを断ち切るように振り掲げた腕を勢いよく振りおろして、立ち上がった彼女は、思いっきり激しい決意と怒りの顔を真正面に向けて、大きく螺旋を描いてて見せる。大きな黒い蜘蛛のような鉤裂きの指が鋭い。強靭な生命力が空気を振動させるような、獰猛な、無垢の生き物が走りだす。

足を高く揚げて旋回。恐怖の花が開く。風に打ちひしがれる巨大なアネモネ。そして強い嵐に翻弄される瀕死の生き物のように、ツイズルから一気に雪崩れ込むステップ。ここからは、もう、私の眼は、完全なカオスに巻き込まれてしまう。

雷鳴があり、頭上で沛然と砕け散るガラスがあり、それらが一斉に打ちつけてくる。無常の雨に打たれてしなだれる全ての花。爛熟の花。未明のおののき。白光するもの。腐りゆくもの。反撥する。うねる。捩れる。のけぞる。ちぎれる。そして炸裂!閃光!閃光!血液は、もはやその場所を留めず、指先にまで心臓が存在するようになる。透明な藍色。ざらつく石灰色。バーミリオン。金属。最も劇的な雲。凶暴な動物。最もエロティークな、最も毅然とした奇跡の彫刻。目眩く、瞬間、瞬間の彫刻。

すべてが、幾重にも、あらゆる空間に同時に存在し、回転し続けた。滑り終わった彼女が天を仰いで両手を高く掲げた時、これらの瞬間瞬間の全てが、浅田真央という、(わたしたちと同じように)生物学的な生を生きる一個の存在に帰属するものだったということに、はっと気付かされて、慄然とするほどだった。

わたし(の眼)にとって、これは、フィギュアスケートの閾を越えたものであった。とにかく、ものすごく異質な、凄いもの。あり得ないもの。

「不可能性(「可能性」ではなく、)に賭ける」と、言葉で言うのはたやすい。でも、誰がそれを生きられるというのか。誰が、こんな恐ろしいもの(身体)を、実際に、見せてくれるというのか?

今回、シロウト眼には、浅田真央ほとんど完璧に見えた。高得点が出て当然と思った。こんなに低い点数がショックであったし、全く不可解である。本当に稀有な才能が抑圧されて、わけのわからない演技が高い点数をもらえるような採点システムを、なんとか改良してほしい、と心より願う。

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