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2011年6月19日 (日)

「毛利武彦先生を偲ぶ会」 阿部弘一 フランシス・ポンジュ

6月18日

夕方7時より東京駅八重洲口近くの居酒屋で師、、毛利武彦を偲ぶ会。

自分自身がまったく画壇と関係なくアウトサイダーなので今の美大の教授や先輩後輩と顔を合わせるのが場違いで苦痛なのだが、ひとつだけ素晴らしかったことがある。

尊敬する詩人、阿部弘一先生と久しぶりにお話できたことである。

阿部弘一先生は恩師、毛利武彦先生の60年来のご親友であり、フランシス・ポンジュの翻訳もされている。幾度がお会いして、ずっと個展にも来てくださっている。阿部弘一先生に絵を見られることは、自分の程度を見透かされる思いでたいへん緊張せざるを得ない。阿部先生、と声をかけることさえ躊躇われる。俗なことの大嫌いな、厳しくも背筋のすっと伸びた美しい佇まいの詩人である。

自分が大学を出て3年のとき、絵の下図を持って師、毛利武彦の自宅を訪ねたことがある。大学卒業と同時に親の借金で絵を諦めて就職と同時に他に二つのバイトに振りまわされて、もう疲弊しまくりで人生が嫌になっていたころ、それでも、絵と完全に離れてしまうこと、毛利先生と完全に切れてしまうことが怖くて、もう一度だけ毛利先生に絵を見てほしくて、師の家を訪ねた。

今思えば5年や10年のブランクも耐えられると思えるが、卒業と同時に眠る時間もないほど働き詰めの生活が3年続けば、そのころの若くて激しい焦燥で満ち満ちた自分には、もう一生絵は描けない(勘が戻らない)、取り返しがつかないような、お先真っ暗な気持ちになっていた。

毛利武彦先生のアトリエ、渋い落ち着いた木の風合い、大きな書棚。なぜか詩の話をした。夭折した幾人かの好きな詩人、村山槐多や矢沢宰の話をして、師は、「もう、歳を追い越しちゃっただろ。」と言った。今、思えば、学徒出陣で二十歳前後で亡くなった芸大の同級生のことを思われていたのだと思う。

ふいに、「あなたの一番好きな詩人は、レミ・ド・グールモンじゃないの?」と言われて髪の毛が逆立つほど驚いた。その当時夢中になっていた詩人を、なぜいきなり当てられたのかわからなかった。「なぜですか?」と眼を丸くする私に「そう思った。」と毛利武彦は笑った。

「僕の友達がフランシス・ポンジュを訳してるんだけど、知ってる?」と毛利先生は本棚から阿部弘一先生訳のポンジュ詩集を取り出して私に見せた。それが、阿部弘一先生とポンジュを知った最初であった。それから、阿部弘一先生の『測量師』『風景論』『野火』』という詩集や、阿部先生訳のポンジュの『表現の炎』『フランシス・ポンジュ詩選』『物の味方』などを読むようになった。

阿部弘一先生が『風景論』で現代詩人賞を受賞された時、毛利先生ご夫妻が授賞式に誘ってくださって、そこで大野一雄氏の奇跡的な舞いがあった。あとで大野一雄先生に「現代詩人賞のときの、あの踊りはものすごかったですね。」と言ったら、大野先生は「ああ、あのときは、すごくうまくいったのね。」と答えられた。そんなことも強烈な思い出として残っている。

2011年6月18日、阿部弘一先生の奥様やお嬢さんのご様子を伺った。人が歳を取って行くということ。定年から始めた弓道もずっと続けられているそうだ。

「娘を見るとあなたのことを思い出すんですよ。お元気かなあ、と。」と言われて、「お嬢さん、私よりお若くてまだかわいいですよね。」と言ったら「いや、同じくらい。ちょっとだけあなたのほうがおっきいかな。」と言われた。

次の個展の予定を尋ねられて「原発事故のあとで、正直絵が描けなくなりました。」と言ったら、「私くらいかと思ったら福山さんもですか・・・・私もそろそろ立ち直らなきゃならないと思ってはいますが。」と言われた。

「戦争のような地獄の体験は、もう生きているうちには二度とないと思ってましたけど、またありましたね。本当に、生きていると、何が起きるのかは、わからないね。」と阿部先生は言われた。

それから、去年ベルリンに行った話をしたら、阿部先生は勇気がありますね、と笑っておられた。阿部先生もドイツのフランクフルトからスエーデン、フランス、イギリスと大学を3カ月回られたことがあるそうだ。それから私が18歳のころ、初めて毛利先生に逢った頃の話をした。

私が恋い焦がれた偉大な才能の人、そして私の絵を認めてくれた偉大な師、若林奮さんが亡くなり、種村季弘さんが亡くなり、中川幸夫さんが遠くに行き、毛利武彦先生が亡くなった。毛利先生が亡くなったとき、あまりの哀しみで私の身体の細胞がだいぶ死んでしまった感じがする。今、絵を見せるのが恐ろしいのは阿部弘一先生だけだ。

阿部弘一先生、初めてお会いした頃より髪が白くなった。けれど静かに麗しい佇まいで。

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