毛利やすみ展 森久仁子様、 春日井建
6月3日
師、毛利武彦の奥様、毛利やすみさんの絵を見に銀座の画廊へ。
銀座の中心あたり、大きなビルが無くなっていたせいで、昔はすっと目的地に行けたのに風景に違和感があって、不覚にも迷ってしまった。2時過ぎに着いたら、画廊はお客さんで混んでいた。
森久仁子様(早熟の天才歌人、春日井建の妹君で、毛利先生の従妹)にお声をかけていただく。久しぶりに対面、またお目にかかりたいとずっと願っていたので、運よくお会いできて感激する。
久仁子さんは、古いスケッチブックを持参されていて、毛利武彦先生が戦後すぐに描いたという幼い久仁子様の素描や、17歳のふくよかな少女の久仁子様を描いた素描など、たいへん貴重な絵を私に見せてくださった。
毛利武彦先生30歳の頃の、先生らしい力強く温かい太い鉛筆の線に感動した。
若い頃の春日井建さんと久仁子さんを建さんのご友人が描いた素描もあった。建さんが私が本で見たお顔とそっくりに描けていたのでびっくり。
森久仁子さんは、しゃべりかた、立居振舞が素敵で、それに文字も恐ろしく美しくて魅力的なかただ。少し話しただけでも、明るくて頭がよくて周りへの気遣いがスマートで、こんな人はなかなかいないと感じる。
さすが毛利先生の従妹で、春日井健さんの妹さん、と感動する。
春日井建は、利発で文学や芸術にも造詣の深い妹をどんなに愛したことだろう。
春日井建歌集には、幾度か毛利武彦先生の絵が装丁に使われている。
下は第七歌集『白雨』(1999年短歌研究社)。この装丁では毛利先生の絵の上に大きな文字と原画にはない斜線がかかっているのが私としては残念だ。
カヴァーの絵は毛利武彦「ひとりの騎手」(1976年 40F)。
実際は微妙な色彩を含みながら石に刻んだような堅牢な空間を持つ抵抗感のある画だ。下の画像は『毛利武彦画集』(求龍堂)。
「日表の水の雲母(きらら)をおしわけて水禽の小さき胸はふくらむ」
「この春に夫を亡くせし妹と母をともなふ日照雨(そばへ)なす坂」
「つ、と翔びて、つ、つと尾羽を上下する鶺鴒を点景としての川の床」
「木漏れ日にみどりの水分(みくまり)渦なせり母は別れをいくつ見て来し」
「目とづれば乳の実あまた落ちつづく狂はずにをられざりし祖父かも」
「朔の月の繊きひかりが届けくる書けざるものなどなしといふ檄」
下は第八歌集『井泉』(2002年砂子屋書房)。春日井建の咽喉に腫瘍が見つかったときに作った歌が収めてある。
カヴァーの絵は毛利武彦「公園の雪どけ」(1987年 50F)。
この絵ははっとするほど斬新な構図で、冬の公園の水の中に棲んでいる噴水の垂直の躍動と、それに対比して水面に水平に浮かぶ雪の静けさを描いている。下の画像は『毛利武彦画集』(求龍堂)。
「エロス――その弟的なる肉感のいつまでも地上にわれをとどめよ」
「冬瓜の椀はこび来る妹よ患(や)みてうるさきこの兄のため」
「表情は怯えをらねど顫へたる膝を見たりき額のそとの膝」
「ひとりきなふたりきなみてきなよってきな 戻らぬ子供を呼ばふ唄とぞ」
「外敵より身を守るため天上に生くるといへり宿痾のごとし」
「細き枝を風に晒せる柳葉のさながら素描といふ感じして」
春日井建の歌は、言葉は強靭だが、非常にか弱いもの、脆弱なもの――植物、鳥、光などの微細な運動を見つめているところ、歳を重ねても少年らしい傷つきやすさが失われないところが、私の感覚を激しく揺さぶる。
・・・
たくさんいたお客さんが一段落したところで毛利やすみさんと記念撮影。お元気でおかわりなくて嬉しい。
この「神無月」という毛利やすみさんの絵は、非常に黙想的で素晴らしかった。赤いアネモネ一輪とワレモコウと葡萄と鳩笛がテーブルの上にあり、月夜の闇に溶け込んでいるのだが、すべてが追悼の祈りに捧げられているように見える。
青い色は空間が透明になりすぎて使うのが難しいのだが、やすみさんは青を使ってもそこに何ものかが充満して漂う空間を描くことができるのがすごいと思う。
私はなかなか着る機会のないアンティークの刺繍のブラウスに、自作のスズランのコサージュを着けて行った。実は画廊にはいる直前の雨に打たれて、真っ白いブラウスにコサージュの緑色が溶け出して移染してしまったので、黒い上着を脱ぐことができなかった。(そのアンティークブラウスは、帰宅してすぐ色がついた箇所を漂白剤につけたらきれいになりました。)
やすみさんにも「トイレの棚に置いてください」とシロツメクサのコサージュを持参した。布花のコサージュ、とてもお好きだそうで、帽子につけてくださったので良かった。
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