毛利武彦先生の原稿と阿部弘一先生の書簡 / 西新宿
12月23日
わが師、毛利武彦先生の奥様から、レターパックが送られて来た。
なんだろう、と封を開けてみて、衝撃に打たれた。
詩人の阿部弘一先生から毛利武彦先生に宛てた手紙の束と写真、そして毛利先生の直筆原稿。その原稿は、おそらく阿部先生が現代詩人賞を受賞された時のスピーチのためのもの。
今さらながら、師、毛利武彦の筆跡のものすごさに圧倒される。知的で美しいというような形容をはるかに超えて、師の「絵」そのものだ。
そして阿部弘一先生が毛利先生に宛てた、二人で詩画集をつくる計画の内容、装丁の相談の手紙。
阿部弘一先生が、フランシス・ポンジュの墓を訪ねた時の、青い海を背にした白いお墓の前での青年の阿部先生の写真。
この原稿、書簡、写真は、阿部先生が持っていらしたフランシス・ポンジュからの書簡などを追いかけるかたちで、世田谷文学館に保管してもらう予定である。
12月18日
長髪で美貌の一級建築士Sが、崩壊しそうな福山家の床下を見に来てくれた。
Sは、70年代の、まだ華奢だったジュリーをさらに女性っぽく、睫毛を長くして、鼻筋は丸ペンで引いた線のようにすうっとまっすぐに細く描いた感じ。
きょうのジュリーは作業着ではない。私服(ダウンジャケットにジーンズ)で汚れる作業をしてだいじょうぶなのか、と心配になる。
畳を上げるためにまず箪笥を移動。その瞬間、箪笥の後ろの罅がはいっていた壁が崩落。ものすごい土埃に「ギャーッ!!」と驚く私。
「土台の板が崩れたわけじゃないからだいじょうぶですよ。車から掃除道具持ってきますから。」と、てきぱきと処理するジュリー。
畳を上げてみて、猛烈に黴の臭気が漂う中、「これはまずい。床がこっちまでくっついてる。」とジュリー。
床板が大きくてはずせなかったため、一部を四角く電動のこぎりで切ることになった。
板を打ちつけてある釘も古くて錆びていて、バールで引き抜こうとしても釘の頭がもげてしまう。
たいへんな作業だったが、素手で淡々とこなしていくジュリー。やっと床板の一部分を外すことができ、黴と埃で恐ろしく汚い床の上に、惜しげもなく私服で寝転んで床下を覗くジュリー。
こんな汚くてたいへんな作業をしてくれるのか、とありがたく思うと同時に、いったいこの古い家をどのように修理、改築するのがいいのか暗澹とする。
12月7日
昔、西新宿でご近所だったEさんと「砂場」で昼食。
昔の西新宿の話、知り合いの消息を聞く。Eさんの若い頃の話も。
Eさんに会うたび、ご高齢になっても、どうしてこんなに若くて元気で頭がしっかりしているのだろう、と感動する。
八ヶ岳に行って来たお土産だと、甘いお菓子に興味のない私のために、ちびきゅうりの塩麹漬けをくれた(これがめちゃくちゃおいしかった)。
Eさんと話していて、長く忘れていた西新宿(昔の十二社)の商店街の記憶が蘇って来て、何とも言えない気持ちになる。
黒い土の上に部品が置いてあった瓦屋さん、少年まんが週刊誌を読みたくて通った甘味屋さん、水っぽい焼きそばとかき氷を食べたおでんやさん、楳図かずおの「おろち」に夢中になった貸本屋さん、ミセキというお菓子屋さん、ヒロセという魚屋さん、エビハラというパン屋さん・・・。
暗渠の脇にくっついていた平べったい小さな家たち。
西新宿が開発されるとともに商店街も無くなり、小学校、中学校の時の友人は皆、遠くに引っ越してしまった。大通りから少し引っ込んだ坂の上の私の実家だけがボロボロになって残っている。
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