『アネモネ・雨滴』 森島章人歌集
10月29日
10月19日に森島章人さんから、歌集『アネモネ・雨滴』が届く。
一本のアネモネあらば希望なる言葉かすかに雨滴のごとし
第一歌集『月光の揚力』から18年、待望の第二歌集です。
跋に、「砕かれる寸前の形、火を上げながらなお立っている形が歌であればよいと願う。」とある。
雛罌粟(ひなげし)の揺るる向かうをしめらせて今宵阿修羅が足洗う音
きみの掌(て)になぜに集まるふはふはと舞ひそびれたる花粉、雪など
一色に胸塗りつぶしわが行くにサルビア園、傘乱立の夏
赦(ゆる)されて生を享(う)けたるけだものよ赦(ゆる)しえぬ世に金の尾立てよ
ひそかなる空の耳あり成し遂げしものなきなげき抱きとむるごと
にごりゆく記憶の底にくもりなき夏誰(た)がかざすをりをりは匕首
きちきちと空気の中を鳴るものよそこに骨などないはずなれど
氷菓溶けだす前に言はむ 炎天を裂けばすがしき半裸の言葉
森島さんの歌は透明な光と微かに囁く声、静かな追憶の世界。死の歌が多いが、声高に叫んだりはせず、どろどろした情念がたぎるような歌にはならない。
この本の中には私の画「風の薔薇・あねもね」を口絵として使ってくださっている。
この歌集の世界に入りこみ、遠くて哀しいところを彷徨えば、いたるところに「アネモネ通り」や「アネモネ領」への入り口が隠されている。
暗きところをかすかに上(のぼ)りやがて咲くあなたの息がアネモネと言ふ
なだるるは歌のみならず昨夜(きぞ)こころなだるるなかにひらくアネモネ
もとより庭などありませんが天心のアネモネを少しだけなら
おさがしの玩具さびしきドラムならアネモネ通りにたしかあるはず
アネモネ通りつきあたり 猫町の噴水春を濡らして帰せ
きみ照らすアネモネ通り西はづれ火を売る店を捜しにゆかむ
アネモネ領 きみの瞳の奥にあり門ひとつなし北へと続く
私は母を失って、強烈に蘇るまだ元気な母と一緒にいた頃の身体感覚とともに、この歌たちを読んでいる。
そしてやはりあまりに近くにいすぎて、失われることなどどうしても考えられなかった愛猫の介護に切羽詰まりながら。
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