癌(肺の粟粒状転移)の定期検査と『マルテの手記』(望月市恵訳)
3月6日(金)
昨年7月の検査で、それまでほとんど問題なかった肺の粟粒転移(原発の甲状腺は摘出済み)が大きくなり、腫瘍マーカーの値も急に上がってしまった。
それ以来初めての血液検査とレントゲン。
私の肺の粟粒転移は治療方法がない(抗がん剤も放射線も有効でない)ことから、ただストレスをかけないこと、そして毎日飲む甲状腺ホルモン剤の吸収を安定させることしか延命方法はないと先生に言われている。
努めて忘れるようにして、ここ数か月は本当に忘れていたが、2、3日前から検査が怖くて怯えていた。倍々に加速して増悪しているかもしれないと。
11時に家を出て1時から検査。2時(午後の診察の最初)に診察予約だったのだが、私の前に二人、患者さんがいて、それぞれが40分以上かかった(おそらく癌の診断が確定した最初の説明)ので私が呼ばれたのは3時半。
緊張したが、レントゲンの目視で前回と腫瘍の塊の大きさが前回と変化ない「定規で計ったけど1mmと変わってない」と言われた。私は半信半疑だが、先生は嬉しそうで触診を忘れてしまうほど。
腫瘍マーカーの値は本日中には出ないが、チラジン(内服している甲状腺ホルモン剤)の血中濃度T3とT4は安定、だから癌細胞の増加は抑えられているとのこと。
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片道2時間の電車と診察待ち時間に読む本にリルケ『マルテの手記』(望月市恵訳 岩波文庫)を選んだ。何度読んでも心揺さぶられる本のひとつだから。
一番好きな場面、ゴブラン織りの6枚の壁掛けをアベローネに語りかけながら見ていくところから読み始める。その絵のくすんだ深みのある色の響きあい、緞子の天幕やオルガン、一角獣と女性のたおやかさな曲線と妖しさ、淡い石竹の花輪の細部や、鷹や獅子やさまざまな小さな動物の仕草やかわいい表情にのめりこんでしまう。
幼いマルテが母親と一緒に斜面机の引き出しの中にしまわれたレースを出して見る場面。レースは農家の菜園になり、蜘蛛の巣になり、温室の華麗な植物になり、雪の茂みになる。目は花粉に朦朧とし、睫毛に氷花が咲く。母親は(想像を絶する苦心をして)このレースを編んだ人たちにはこのレースがそのまま天国だったと言う。
ブラーヘ伯がアベローネに口述筆記をさせながら、おまえにはサン・ジェルマン(フォン・ベルマーレ侯)が見えるかね?と問うシーン。その瞬間、ベルマーレ侯の姿を見ることができたというアベローネ。
「僕は目に見えるように物語れる人に、一度も今まであったことがない。」とマルテは語る。
リルケは目に見えるように物語れるかをこの作品にかけている。遠く時と場所を隔てて、私が『マルテの手記』から強烈に印象に残るシーン(絵)を見せてもらえていることは僥倖だ。
望月市恵氏の解説も素晴らしい。リルケが敬愛したロダンから学んだ作品の「造形性」について。
私の眼に強烈に訴えて得も言われぬ数々の絵を見せてくれる本は、私を病気と死の不安から救ってくれる。
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そして前日にメールや電話で不安を吐露してしまった親友たち、祈ってくれてありがとう。心から感謝です。
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