まんが

2024年11月11日 (月)

二匹展 6日目(最終日)の記録

11月4日(祝日)の記録

今日最終日、もう本当に体力ギリギリで頭朦朧だったので今朝もレットヴィモ休薬。

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私の西新宿の古い家を改築してくれた村野正徳君。
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いつも変わらずあたたかい斎藤哲夫さん(シンガーソングライター)。
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今日は中塚正人の「風景」を歌ってくださった。
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このシンプルな曲はいろんな人がカバーしているが、哲夫さんの今日のギターと歌唱は一番泣けました。

いずれyoutubeにアップします。

たくさんのお客様。
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昨日来られて「『反絵、触れる、けだもののフラボン』にサインが欲しいんで、明日持って来ていいですか?」と言われた小説家のM・Kさん。ビーチサンダル姿が印象に残った。

私はこの本を小説家のかたにほめていただくのは初めてなので、たいへん感激した。比喩や観念を入れない、見えるものをそのまま描写することに共鳴してくださったとしたら稀有なことだ。


早稲田大学の谷昌親先生。「美容師にそそのかされちゃって」と髪を伸ばしてパーマをかけたヘアで、すごくおしゃれ。
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ポスターハリスカンパニー代表で寺山修司記念館副館長の笹目浩之さん。映画「田園に死す」の中での花輪さんの描いた看板は、寺山修司が撮影の際に火をつけて燃やそうとしたが、スタッフがそれは忍びない、と言って救ったとか。いいお話を聞かせていただいた。
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笹目さんも「とにかくこの絵が最高にいい」とおっしゃっていたペン画。これは30年以上前の花輪さんの個展で一番の大作で、その時に私が譲り受けた宝物なのです。あまりにも繊細で、かわいくて神々しい。
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安部慎一のドキュメンタリー映画を制作中の外川凌さん。

フルーテイスト、篠笛奏者の藤原雪さん。一緒にお写真を撮っていただきたかったのに撮り忘れてしまいました。

とにかくお客様いっぱい。
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昨日、外から大きなガラス窓越しに私の絵を見て、今日見に来てくださったという元モデルのHamさん。Sdsc01008_20241110130901

詩人の中本道代さん。
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シモーヌ・ヴェイユを主軸に芸術、詩学を探求されている今村純子さん。
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5時になった瞬間、テーブルに突っ伏してしまった。肩首背の筋肉が緊張しすぎて強い吐き気がして。

レットヴィモを飲みながら、サンダルで立ちっぱなしで血行不良の姿勢で連日はきつかった(寒気がするので腰と背中に使い捨てカイロを貼っていた)。

そして花輪さんファンのかたたちの熱い思いに触れ、対応する喜びと緊張感、半端なかったです。

ご来場いただいた皆様、熱心に見てくださった皆様、本や絵葉書など購入いただいた皆様、本当にありがとうございました。

新たな出会いも僥倖でした。

 

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2024年11月10日 (日)

二匹展 5日目の記録

花輪和一ネットオークション、本日11月10日夕方5時終了です。

https://blog.goo.ne.jp/anti-lion

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11月3日(「二匹展」5日目)の記録

だるくて身体が持たないので昨夜からレットヴィモ休薬。

わりと早めの時間に伊藤ゲンさんがいらして私の絵を買ってくださった。

今日はありがたいことに、お客様がたくさんいらしてバタバタしていました。

舞踏の興行の会社にいたというマニアックなマンが好きの、とても面白いK野さんがすごく笑わせてくれたり、

私の旧友たちが来てくれたり・・・花輪さんファンのかたがたはいっぱ~い・・

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画家の高須賀優さん。
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彦坂尚嘉先生がまたいらしてくださった。彦坂さんと平田星司さんと颯田さん。

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4時くらいに来られて、ずっと黙って長い時間、大きな絵と連作6枚を見てくださったS藤さん。昨年も来られたという。黒一色のファッションがすっきり決まっていて俳優さんかと思ったが、一般のかただという。

「絵も、文章も、見れば見るほど迷宮にはまる」と言ってくださった。そんなに長い時間黙ってみてくださるかたはいないので感激した。

玄関入ってすぐに展示した私の絵「エロスとテロル」の前でかっこよく佇むひろき真冬さん。
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平田星司さんのお父様(前衛歌人)が昔、SM雑誌に小説を書いていたという話で盛り上がる平田さんとひろきさん。Sdsc00924

平田星司さんのお父様、織裳雪夫さん。当時、売れっ子の団鬼六が皆を引き連れて慰安旅行に行った時の記事とか。Sdsc00925

ポルトリブレの平井勝正さん。
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根本敬さん。
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閉廊前は彦坂尚嘉先生と語り・・
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軽く夕食をご一緒しました。

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2024年11月 1日 (金)

二匹展 2日目

10月31日(木)

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後ろの棚に展示してあるのは32枚の花輪和一さんの色紙です。

この日も花輪和一さんファンがたくさん訪れてくださいました。ありがとうございます!

どこで「二匹展」を知ってくださったのかお聞きすると面白い。

X(Twitter)が多いが、意外にも高円寺の何カ所か(古書店などなど)に貼らせていただいたチラシ(コピー)を散歩の途中で見た、というかたが・・。貼ってみるもんですねえ。

私は昨日に引き続き血行が悪く、からだが冷えてしまい、午後3時過ぎくらいから首肩の凝り、頭重、浮腫などに悩まされる。

だるくてだるくて、遠赤外線パックを腰にあてていても寒いし、体調は最悪とは言えないが元気はない。

今日、個人的に一番印象に残ったのは、夕方になって来てくれたWさん(私のマッサージをしてくれている人)だ。

Wさんは絵なんてほとんど見たことない、展覧会なんて行ったことがない人なのだが、何度か施術のためにうちに訪れてくれて、私の絵や写真を見るたびに「すごい!今まで知らなかった世界を見せてもらってる気がする!」と感動してくれる人。

Wさんは、玄関を入ってすぐにかけてあった私の暗くて渋い絵を見て、

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「すごい!と思った。あれを見てしまったら緊張して、あそこから廊下を通って中に入っていいのか、と思った。」と言った。

絵を見たことが無い人が、そこで衝撃を受けて立ち止まるタイプの絵ではない、と私本人は思っていたので、その発言にとても驚いた。

 

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もっと驚いたことは、Wさんは私の今回の展示の中で一番大きな絵を見て、
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「これすごい!」と言ってから。その絵の横に貼ってあった

「「動物を食べない」と私が言うと、「じゃあ植物は殺して食べていいの?」と反射的に返してくる人がいる。
私は「あなたは植物を切るように平気で生きた動物のからだを切ることができるのか?」と問いたいのだが。

だが死の恐怖や痛みを感じて身を震わし、泣き叫ぶ生命と、芽を切ってもさらに伸びたり、土の下の根から再生したりする植物の生命、ただそこに開かれてあり、種子を飛ばし、伸びるところまで伸び、眠る動物たちを覆って、風に揺らぐだけの生命とを同等に考えられないことは、本当は誰でもたぶん気づいている。」

という言葉を読んでいきなり涙をこぼしたことだ。

「・・・わっ・・ティッシュちょうだい。泣けてしまう。文章が上手すぎる。無駄がなくて、すごく胸に刺さる」と言ってWさんは泣いた。

wさんも動物の肉を食べられなくて、周りの人にいろいろ非難されたりするのが辛いと言っている人。

「この絵を見て、この文章を読むから余計泣けるのかもしれない」とWさんは言った。

私はそんな素直な反応をしてくれる人がまさかいるとは思ってもいなくて、Wさんが泣いてくれたことに泣きそうになった。

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「植物もやさしさを示したり、苦しみを味わったりする」と主張するのは、決して超えてはならない境界線を越えている。植物は苦しまない。
苦しみとは、個体としての生物によって「実際に経験されるもの」だ。
死とは、決して後戻りできない、絶対的で不可逆的な終末だ。
――フロランス・ビュルガ

・・

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「動物は他の動物を食べている。人間も人間以外の動物を犠牲にして生きるのが当たり前だ」と言う人がいる。
ライオンやトラが動物を食うのは本能だ。
肉食は単なる人間の文化にすぎない。動物を殺さない食文化もあり得るし、食べられない「本能」も私の中には確かにある。
・・

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〈動物のジェノサイド〉。〈これらのイマージュが「悲壮〔pathétiques〕」なのは、それらが悲壮にも、それこそパトスの、病理=感性的なも
の〔lepathologique〕の、苦痛の、憐れみの、そして共苦〔同情compassion〕の巨大な問いを開くからでもある〉。
            ――ジャック・デリダ 『動物を追う、ゆえに私は(動物で)ある』より
・・

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〈先決的、かつ決定的な問いは、動物が、苦しむことができるかであるだろう〉という言葉をめぐって、語れる能力を持っていることを示すことではなくて、動物たち
の苦しみをどれだけ〈共に〉苦しむことが〈できる〉のか、どうしたらその苦しみを〈限界の周りで、限界によって〉〈養い〉、〈生成し、育成し、複雑にできる〉のか
ということだろう。」
——福山知佐子 「応鳴、息の犇めき——ジャック・デリダの動物論に寄せて」より
・・

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私は切断された植物のあいまいな生と死の瞬間を開く。

だが、植物に動物のような感情や痛みがあるとは思わないし、決して植物を擬人化したくはない。

私にはかつて生きていた動物の死骸の一部を展示するようなアートも収奪(動物の虐殺への加担)だと感じられる。

過剰な感覚身体で誰も見ようともしない遺棄されたものによりそい、誰も見ることのできないものを体験し、共通言語から遁れさる「パトスの、

病理=感性的なもの〔lepathologique〕の、苦痛の、憐れみの、そして共苦〔同情compassion〕」を証言することが私の絵の仕事だと思っている。

 

 

 

 

 

 

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2024年10月29日 (火)

花輪和一オークションについて

花輪和一オークションについて

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詳細は あんちりおんのブログ  https://blog.goo.ne.jp/anti-lion

をご覧ください。

入札期間は10月30日(水曜日)午後12時から11月10日(日曜日)午後5時です。
入札はメールで受け付けます。

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花輪和一×福山知佐子「二匹展」のお知らせ

花輪さんの作品は全部で47点、過去最高の数の展示だと思いますので、皆様、見に来てください。

花輪作品の載っている「あんちりおん」、絵はがきも売っています。

会期:2024年10月30日(水)~11月4日(月)

時間:12:00~19:00(最終日は17:00まで)

場所:GALLERY工+with 東京都杉並区梅里1-8-8 梅里1-8-8ビル101 

昨年秋に私が個展でお世話になったギャラリー工さん(丸の内線新高円寺駅すぐ)でやります。

https://www.ga-kou.com/ 

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「二匹展」明日からです よろしくお願いいたします

10月29日(火)

花輪和一×福山知佐子「二匹展」いよいよ明日からです。

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(部分)

私は体調が悪くならない限り、毎日在廊しておりますのでよろしくお願いいたします。

いつも個展は10日間くらいやっていたのですが、今年はレットヴィモの副作用でしんどいのでたった6日間だけの展示となります。

(蛇足ですが、体力的に非常に厳しいので、会期中は19時以降の夕食などのお誘いにはおつきあいできませんのでご了承ください。)

10月28日(月)

「二匹展」の搬入終わりました。

11時に篠原さんが来てくれて絵を一緒に運んでくださった。

とにかく作品数が多すぎて、どれをどこに配置したらいいのか考えるのがたいへんだった。

しかたなく棚の上部にまで展示。

下の写真の正面の棚にあるのが花輪さんの色紙ですが、最終的には色紙だけでも32枚の展示となります。

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そのほかに額に入れた絵が15点くらいだったろうか・・・計47点。

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花輪和一の生の絵がこんなにたくさん展示されるのは、(正確にはわからないけど)もしかしたら初めてかもしれない・・・。

30年くらい前に渋谷のアートワッズでの花輪和一個展の時に篠原さんも行ったというが、「あそこだって20点くらいだったでしょ。これはすごい量だよ」と。

個人蔵のものもあるので、全部ではないですが、そのうち(たぶん)21点を

会場にお越しになれない全国の花輪和一ファンの皆様のためにオークションします。

たぶん今日の夜にはこのブログとTwitterででオークションサイトをお知らせします。

そして私の作品も、間に合わないかと思ったのに、最後は加速度がついて40点超になってしまい、展示するスペースがなくて玄関や廊下、窓の内側にも展示。

二匹で100点近く展示ということになりました。

篠原さんは必ず私に「どうしたい?」と聞きながら進めてくださる。

絵の展示の設営は頭と神経を使って本当にたいへん。

導線に添って「どこに何を飾ったら印象的になるか、どの方向からどれくらい照明を当てるか」などを考える、非常にあいまいできりのない、それこそ芸術的センスを酷使する仕事だ。

篠原さんはものすごくお忙しいところを来てくださっていて、これから次の仕事場所に行かなけらばならないそうで、最後、私が画題のプレートを引っ付き虫で貼っている頃にはウトウト・・。

5時間半くらいかかり、私も疲れすぎて倒れそうだった。

最後に篠原さんは展示風景の写真を何枚も撮って

「すごくいいよ。いい展示だ」と言ってくださった。

なお物販(ポストカードなど)もいろいろあります。

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花輪和一×福山知佐子「二匹展」のお知らせ

会期:2024年10月30日(水)~11月4日(月)

時間:12:00~19:00(最終日は17:00まで)

場所:GALLERY工+with 東京都杉並区梅里1-8-8 梅里1-8-8ビル101 

昨年秋に私が個展でお世話になったギャラリー工さん(丸の内線新高円寺駅すぐ)でやります。

https://www.ga-kou.com/

ギャラリーにお越しになれない方のために、ネットオークションも開催する予定です。

オークションの入札締め切り日は11月10日(日)17時です。

オークションについては、私のブログでお知らせしていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

 

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2024年6月19日 (水)

ささやななえ「海のかけら」「八月の森」「ダートムーアの少年」

6月17日(月)

ささやななえこ(ささやななえ)さんが亡くなったというニュースを見て悲しい。

子供の頃、本当に好きだった漫画家さんのひとり。

特に好きな作品は、遥か年月が経った今も変わらずしょっちゅう読み返している「海のかけら」「八月の森」「ダートムーアの少年」。

「若葉の頃」「海のかけら」「八月の森」は「ささやななえ抒情シリーズ」と銘打たれていたと思う。どれも子供だった私が泣きまくった悲劇。

特に「海のかけら」と「八月の森」は少年の一途さと透明感と、もう少しで幸せになれるところに訪れるカタストロフィがなんとももどかしく美しい作品。

その線は柔らかく温かみがあり、適度に湿って重くたっぷりとして、

淋し気でとびきりきれいな眼と、正面から見た鼻の描き方に特徴があった。

古い外国映画の中に入り込んでしまったような強烈な感動があった。

透明な風や光が見え、人物が生き生きと動き回ると同時に音楽が聞こえてくるような感覚。

ささやななえさん自身が、BGMが重要で音楽の世界に浸りながら描いていると(本のページの端っこの手書きエッセイで)書いておられる。

また、それぞれの作品にささやななえさんが作られた詩の言葉が繰り返されるところが切なくて、子供心にしびれたのだった。

「海のかけら」には

「やさしかったクリステイン 海にいったクリスティン そっと私の手のひらに 白い小さな貝のせて これは海のかけらだと ああ ささやいた クリスティン・・・・」

「あなたの金髪ちぢれっ毛 クリスティンとおんなじちぢれっ毛 あたしの愛したクリスティン 海にいったクリスティン 

むくどりこまどりうたつぐみ しっているならおしえておくれ いらくささんざしばらいばら どこにいるのかさがそうものを・・・」

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 「八月の森」には「森は腕をひろげ ぼくをよぶんだ ――おいでーーおいで」

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「ダートムーアの少年」には

「いつかかえろよ ダートムーアに さびしいわたしをうめるため 白い墓標はたてないで」

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この話は映画「オリバー!」によく似ているだが、ささやななえさんは「オリバー!」を見ていなくて、偶然の一致でびっくりしたとのちに書いていらしたと思う。

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肉親のいないひとりぼっちで負けん気の強い少年(実はどろぼうの子分)のジンジャー・エールがすごく魅力的に描かれていた。

ささやななえさんには1999年か2000年くらいに小学館漫画賞のパーティーでお目にかかれたことがある。

月刊少女コミックやプチフラワーの創刊に携わった山本順也さんが「エスコートしてあげる」と言って連れて行ってくださったのだ。夢のようだった。

ささやななえさんのほかにも萩尾望都さん、美内すずえさん、山岸凉子さん、城章子さんたち、それにタケカワユキヒデさんもいらして一緒に写真を撮ってくださったのも夢のよう。

あの写真、どこかにあるはずだがすぐには出て来ない。

とにかくその時に「海のかけら」「八月の森」「ダートムーアの少年」などと出会った最初の強烈な衝撃とじっと大好きな熱い思いを、作家さん本人に直にお伝えすることができたのは嬉しかった思い出。

山本順也さんは少女漫画誌に倉田江美や樹村みのりといった、それまでの少女漫画では考えられなかった個性的な作家の自由な発想の作品をどんどん描かせた。

山本さんのお人柄は全く偉ぶったところが無くて、革新的、正直、温かくてさっぱりしていた。

山本さんが私の個展のオープニングに来てくださった時の写真。

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左側は詩人の吉田文憲さん。

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山本さんとお知り合いになれたのは、私が一度だけ原稿を見ていただいた、それだけのきっかけなのだが、まったくけなしたりせず、上からものを言うこともなく、真剣に受け止めてくださって、本当にすごいかただと感動した。

それまでほかの出版社の漫画の編集さんに何人か(私の原稿を見せたわけではなく)会ったことがあるが、若い人ほどものすごく偉そうで、自分のほうが無知なのに狭い主観での決めつけが激しく、枠にはまらないものについて「合わせないのは非常識だ」と罵倒してきたり、自分の方が絶対的に偉いという態度がそれはそれは酷かった。

結局、私はすぐに漫画をかくのを諦めてしまったけれど、山本さんには「絵にけれんみが無い。本当に漫画のほうに来なくてよかった」と言われた。

 

 

 

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2024年6月 5日 (水)

北海道の花輪和一宅へ行った記録(3)

5月28日(火)14℃ 曇り

明日帰るので家の周りの風景も名残惜しく、朝の光の中をひとりで散歩。

近所の素晴らしい白藤の樹。庭仕事をしていたご主人に「この樹、すごく素敵ですね」と声をかけると、樹齢30年にもなり、前に住んでいた家からこちらへ移植したのだという。
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風になぶられてふわふわ揺れていた空色の亜麻の花。花弁は可憐、茎はすごく細くてしなやか。
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花輪さんが最近描きかけの絵は、地中の樹の根に10匹のセミの幼虫、地上に続く穴から水が落下していて、その滝を龍が上っていく、それを見ている着物姿の女の人。

セミの幼虫だけは何度描いても飽きないらしい。

12号くらいのパネルに水張りがきれいにできている。「すごいじゃない。水張り、完璧!」と言うと、「ご指導の賜物です」と。

 

午後には曇ってしまったが、2時過ぎにまたひとりで緩やかな坂道のバス通りを行けるところまで下ってみた。

使い捨てカイロを貼って出かけたが寒い。

バスの中から見つけて絶対近くで見ようと思っていた廃中学校の藤。しばらくこの藤のそばにいた。

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北海道のタンポポは大きくて野性的。太い茎がうねっているものも多い。
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初日にバスの中から見て素敵だった濃いライラックの樹があるお庭。ここまで歩くのに40分ほど。

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暖かければなんてことはないが、私は冷え性なのですっかり手足が冷えてしまった。

1時間半くらい歩きまわり、帰宅して花輪さんの腕に触れて「ぎゃ!氷みたい~」と言わせる。

熱いお風呂に入らせていただいた。プロパンでお湯が細くしか出ないので、お風呂のお湯を貯めるのに時間がかかる。

追い焚きできず、お湯がもったいなくて申し訳ないのであまり入らなかったのだが、今日は冷えたので。

花輪さんにひとつ嬉しい報告をした。2年前に二人で行ったイケマでいっぱいの野原は潰されて建物が立ってしまったけれど、その歩道側の縁には山ほどのイケマの蔓が芽吹いていたこと。

その少し先の郵便局の隣の小さな空き地にもイケマの大群。100本は蔓があったよ、と伝えると、「本当に~!もうだめだと思ってた」と喜んでもらえた。

北海道産のお蕎麦がおいしくて、夕食にはゴマと海苔と鰹節をたっぷりかけていただいた。

5月29日(水)

ついに帰宅の日。

朝7時に起きる。

一枚板のローテーブルで初めて癌のことを面と向かって聞かれた。今までもいきさつを話してはいるが、私が元気そうに見えるらしく以前のような寛解状態ではないことを理解していないようだ。

現実感が無いのだろうと思う。

近くに置いてあった『水精』の「まどわし神」をめくって「この夕日の逆光のススキ、子供たちの不気味な顔、カラカラカラという風のうねりの束、ものすごいよね。この1コマだけでもすでに天才。このススキを放り投げている後ろ姿の子供たちの絵もすごい。「その頃 足から出た血の上を 秋のコオロギが弱々しく横ぎって いったのだった」で終わる最後のコマも異常にすごい」と言うと、

花輪さんは「わからない」と言う。「ただ出て来た」だけで、それがすごいのかも、どういう気持ちで描いたかもわからないと。

いつもそうだが、ほめられることに実感がないようだ。

生きるか死ぬかの状況でやむにやまれぬ自己救済のために描かれた過去の作品たちは異様な煌きを放っているが、もっとも凄みのある美しさと哀しみに満ちた『護法童子』のような作品こそ、花輪さん自身は「見たくない」と言う。

その時の自分の苦しい精神状態が蘇ってくるからと。彼にとって母親や義父との精神的葛藤はいまだ生々しくて昔話になっていない。

花輪さんは中学を卒業してすぐ家を出て印刷会社で働いていた。そこは官報を印刷していたがとても忙しく、毎日夜10時過ぎまで残業だったそうだ。

「とにかく絵が描きたくてたまらなくって。でももうくたくたで描けなくて、そこでは5年頑張ったけどやめた」そうで、20歳すぎに勤め先は巣鴨紙器に変わり、25歳からは絵だけで食べて来た。

11:42発のバスで駅まで一緒に行ってくれた。別れる時に、去年言われたのと同じことを言われてしまう。

「福山さんはさ、俺とはレヴェルが違うんだから疲れるでしょ。レヴェルが同じ人とつきあったほうがいいよ。俺たちはただ絵だけが共通で、そのほかのことはすべてが合わないんだから」と。

「その絵の話ができるってすごいことでしょ。私には花輪さんのほかに絵や才能にすごく興味を持てる人がいないんだから」

「美大の友達とかいるでしょう」

「ぜんぜん。たまに話す人はいるけど、特に・・。花輪さんほど強烈で面白い人はいない。私は昔から天才とか異才にしか興味が持てないみたい」

花輪さんは「美大を出ているだけですごい」と、とんでもなく的外れなことを言う。私は全然そうは思えない。

私にとって美大出身者は、(そうでない人もいるけれど)自己顕示欲だけ強い凡庸な人が多いイメージしかない。

花輪さんのように15歳から自立(自活)して実力だけで自分の世界を作り上げて来た人とは比べようもない。

「福山さんはいつも張りつめているでしょう。だけど福山さんのペースにはついていけない。俺はばかなんだから、ばかはしょうがないと思って泳がせておいてほしい」と言われ、

私が一緒にいると、私が過集中で常にのめりこんでしまう傾向があるので、気を遣い過ぎの花輪さんにはすごくプレッシャーがかかって落ち着かないんだろうなと思う。

今の私は、来年どうなっているかわからない、もう二度と会えないかもしれないと思い、ついなんでも徹底的にやりたいという感じが出てしまう。

花輪さんは、私など足元にも及ばない超人的な集中力と天才的な閃きの人で、尊敬しているのだが、私と距離が近すぎると緊張して集中できないみたい。


札幌から新千歳に向かう電車の右側の窓から見える私の好きな景色。
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来年はもう来られないかもしれない。もしかしたらまた来られるかもしれない。

先のことはわからない。

 

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2024年6月 4日 (火)

北海道の花輪和一宅へ行った記録(2)

5月26日(日)

パンパンに腫れていた唇の皮が擦り傷のカサブタのようになって剥けてきた。顔の浮腫も少し快方に向かう。

朝は遅くまで寝ていたが、今日だけは最高気温22℃の予報なので、2時半頃から近所を散策。

花輪さんは膝が痛いそうで、私ひとりで周りの家々に咲く植物を見て歩いた。

そこかしこに咲いているスズラン。
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毒があるという黄色と淡いミカン色のレンゲツツジ(蓮華躑躅)。極彩色のフーシャピンクのツツジやサツキは苦手だけれど、この花色は素敵。
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近所の背の高い濃い紫のライラック。
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5月27日(月)

カーテンとガラス戸の向こうは風がごうごう。大粒の雨。樹が激しく揺すられて嵐のよう。

だが昼前からぱあっと光が差して明るい天気雨になる。

青く細いペンで、最近は描かない利発そうな大きな眼をした女の子の絵を描いてくれた。

神経がぴんと張った素晴らしい線。思わず「わあ!すごくいい!」と声がでてしまう。まさにほれぼれ。

最近は昔と違って目が小さくて鼻が大きい顔ばかり描くので「もっと目が大きくて鼻は小さい顔の子を描いて」とお願いすると、必ず「だって目が大き過ぎたらおかしいでしょう」と言うのだ。

「昔描いていた(眼の大きな)顔を描きたくないんだよね」と。

でも今日、この時だけは甦った。

1時半から1時間少し、花輪さんは役員会の会合に出かけた。老人会からやっと抜け出せたかと思ったら、押し付けられていた会長を辞められただけで、役員は抜けられていなかった。

誰もが老人会を嫌がってやる人がいないからしかたないという。

3時前に帰って来て、血圧計を借りた時、花輪さんのセーターから煙草の匂いがした。

まさか、と思って聞くのが怖かったが「煙草吸った?」と尋ねると「吸ってないよ。前に着ていた秋冬の服だから匂いがついてる」と。

ああ、良かった!!疑って悪かった。

70代後半にして禁煙できたというのも奇跡だ。

以前は一緒にいる時に嘘をついて私から姿をくらましてまで煙草を吸っていた。

「福山さんはすごく精神が強いから。誰もが福山さんみたいに強いわけじゃない」と言われて辛かった。

友人に聞いても、この歳までひとりで生きて来た人が今更煙草をやめられるわけがない、依存症は治らないと言われていたのに。

しかしそれでも煙草をやめることができた。花輪さんは本当にすごい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2024年6月 1日 (土)

北海道の花輪和一宅へ行った記録(1)

5月22日から29日まで北海道の花輪和一宅に行っていた記録。

5月22日(水)

昨日の朝くらいから副作用が強く出始め、血圧上昇と後頭部痛があり、昨夜からレットヴィモ休薬。

朝7時に起き、これからの旅の体調が持つのか不安でずっと緊張していた。

なんとか無事に飛行機に乗る。新千歳から札幌までの電車で座れなかった。

レットヴィモ服用していなかった時の晴れ晴れとした旅行とは明らかに違う、この薬を始めてからは常に疲労感と筋肉痛がある。

17時15分くらいに札幌駅のエカシ像で待ち合わせ。花輪さんが「東口」と間違って伝えられていたが実際は北口だった。

地下鉄に乗り、最寄り駅のスーパーで食材を購入。バスで家に向かうが、片道のバス代が昨年240円だったのが360円に値上がりしていた。

鱈、豆腐、白菜、葱、春菊などの味噌鍋。

何年も使ってる黒ずんだプラスチックのまな板が恐ろしくて、私が調理させてもらい、まな板を使わず洗った大きな皿の上で切った。(最初に花輪宅に来た時、食後にひどくお腹が壊れて苦しみ、それ以来調理器具に気を付けている)

私は疲れすぎてほとんど食べられない。

花輪さんは鍋と大盛り玄米2杯、そのあとに巨大なホヤを一個平らげ、さらに夏みかん、最後に甘い瓦せんべい。私よりぜんぜん元気。

5月23日(木)

天気予報によると今日だけが23℃予報で明日から気温が下がるようなので、ライラックと林檎の花を見に出かけることにした。

花輪さんが平岸の林檎並木を提案してくれ、まずは東豊線の美園駅へ。

中央分離帯に林檎の並木があるが、もう花は終わっていた。

林檎の樹の下には白いタンポポの穂綿の中に朱色のコウリンタンポポ(紅輪蒲公英)。

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大通り公園のライラック祭りは肉を焼く匂いに吐き気がしてしまうので、食べ物屋の集まる場所を避け、ライラックだけを見て歩いた。

生まれて初めていろんな種類(10種類くらい?)のそれぞれ個性的なライラック(リラ)を見た。

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ライラックはモクセイ科で花の香りも素晴らしい。この香りは切り花にすると消えてしまう。
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レットヴィモ240mg約3週間続けて休薬して2日目。顔はやや浮腫あり。

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3時過ぎに私が場所を調べておいた北口のサイゼリヤへ。

海老のサラダ、ニンジンサラダ、Wチーズピザ、コーヒーゼリー、ドリンクバー。花輪さんが7割食べた。

帰宅してからも花輪さんはご飯を食べたりお菓子を食べたり。

私は夜1時まで仕事していた。

5月24日(金)

気温急降下。最高気温15℃で雨。

寒気と疲労感、頭痛ですごく体調悪くなる。顔は(昨日よりずっと)酷く浮腫んでぞっとするくらい。

何かのアレルギー反応か、唇もパンパンに腫れて痛くなった。

電気敷毛布を貸してもらって寝込む。夜に少し咳。

5月25日(土)

昨日と同じく最高気温15℃。曇り。朝、石油ストーブを焚かせてもらう。

今日も体調悪く、昼も寝込む。すごく冷えて循環が悪いせいか疲労と顔のむくみがとれない。

レットヴィモが抜けきっていないせいだと思うが、普通の風邪気味の時とは違う、酷く疲れた腫れ顔。

なんとか発熱しないようにがんばった。

 

 

 

 

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2023年7月19日 (水)

ボリジ、ノラニンジン、刑務所の中の日記

7月11日(火)雨

ここは札幌よりは高い位置にあるのでだいぶ涼しい。

夜、トイレに行くと窓の外の空気はしんしんと冷えていて寒いくらい。体感14℃くらい。

家の前に植えてある青紫の優美な花。田中未知さんがオランダから種を送って来たという。
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調べてみたらボリジ(瑠璃萵苣、ルリヂシャ)という植物らしい。

私もこの花を初めて行った時のベルリンの原っぱで見て忘れられなかった。聖母マリアの青い衣を描くときに使われ、マドンナブルーと言われるそうだ。

北海道の天気は目まぐるしく変わる。雷が鳴ってざあっと降って、晴れて曇って、また降って。

夕方、ひとりで家の周りを散歩した。どの家も植物を植えている。

ラベンダー、薔薇、ウマゴヤシ、マツムシソウ、タイマツバナ(ベルガモット・モナルダ)が満開。

そして道端に勝手に生えている美しいノラニンジン。初めてこのレースフラワーを道端で見た時、さすが北海道、とすごく感動した。Sdsc04585

ひとり、集落の端っこの階段を降りると、去年ふたりで歩いた最初に花輪さんが発見したイケマの道に出る。今はその道が破壊されていて、広大な農地にブルドーザーが入っているので泣きそうになる。

野生のフキの茎を折って齧ると、苦い懐かしい味に胸がつーんとする。

・・

「これ刑務所の中で書いてた日記。」と、私がねだったわけでもなく花輪さんが大学ノートを持ってきて見せてくれた。

あの名作『刑務所の中』が描かれる前のリアルなデッサン、スケッチと日々の記録。見た夢の記述も多い。

あまりに明確にデッサンした建物の中の絵は、刑務官によってきれいに切り取られて無くなっている。

しかしリアルに細かくデッサンしたことで建物内部の構造すべてが記憶に鮮明に残っていたから、あの漫画を描けたのだなあ、と感動。

『刑務所の中』のまんがに描かれたコマより数段繊細かつ劇的に、赤と青と黒のボールペンの線で描かれた風呂場の窓からの陽の光。光の中になにかがいる。(画像の無断転載は固くお断りします)

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ほかにも毎日、部屋から見える白樺の樹の成長と変容を描いたデッサン、読んだ雑誌の中にあった顔写真や絵(なぜかベルト・モリゾの絵)のスケッチ、見開きの記事ひとつそのまま写したもの(立花隆が書いているオウム関連の記事)・・・。

「なんでこんなに根気があるの?すごすぎる。こんなに根気がある人はいない。」と言うと

「だってやることがないんだもん。しかたないんだよ。」と。

ほかの皆がだらだら寝ている時に、ひとり絵を描かずにはいられなかった、すべてを克明に記録せずにはいられなかった、根っからの掛け値なしの表現者。

それは誰に見せることも意識していない純粋なノートで、天才過ぎて涙が出てくる。

しかし白樺の樹の変容を定点から描いたものを見ても、一般の人は何の感動もないのだろうな、結局、絵を描く人間どうしでしか感動しないのだろうな、と思ってしまう自分もいる。

7月12日(水)曇り

朝7時に起きて、深紅のラズベリージャムをこんもりつけたパンと紅茶。

8時45分発のバスで花輪さんに駅まで一緒に乗ってもらう。

駅で花輪さんに「いろいろお世話になりました。パソコンまで直してもらって。」と言われ、

「ええ?たいへんお世話になったのはこっちでしょう?いろいろすみませんでした。」

「福山さんは精神が強すぎるんだよね~。」

「ええ?どこが?」

「ものすごく精神が強すぎて、それにからだがついていけなくて、すごくやせちゃってて。俺なんてついていくのがやっとだよ。」

11:40発羽田行きの飛行機に、10:30にチェックインしたら、1席だけ残っていた窓際の席がとれた。

千歳の原生林と支笏湖が光るのを空の上から見るのをすごく楽しみにしていたのに・・・今日は厚い曇に覆われていて残念。

新千歳を飛び立ってから窓の外は真っ白。まあ、雨で雷雲の中に入ってしまったりしたら2、3時間も遅れることもあるらしいので、順調に飛行できて幸運と思わないといけない。

30分くらいしてからカーッと晴れて山脈が見え来て、東京に着く頃は36℃。

品川で電車を乗り換える時、温度差に順応できずに吐き気がした。

 

 

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